知財金融シンポジウム

事業性評価セミナー開催情報
 私(知財経営研究社 代表)が企画部長を務めております、 城西コンサルタントグループが、金融庁の日下智晴様(『捨てられる銀行』に登場する方です)をお招きして事業性評価に関する講演会(セミナー)を開催する準備を進めております。(2017年12月20日開催予定)
 地方銀行や信用金庫・信用組合の方を対象にしております。
 詳しくは、こちらをご覧ください


知財金融とは
 知財ビジネス評価書(平成29年度)
 事業性評価3級について


 去る3月3日(金曜日)に、特許庁と金融庁が主催の「知財金融シンポジウム」が開催されました。
 知財金融とは何か?、知財を切り口とした中小企業の事業性評価とはどのようなことか? といったことがテーマでした。

 特許庁では、「中小企業知財金融促進事業」を推進しています。これは、中小企業の知財を活用したビジネス全体を評価する「知財ビジネス評価書」を地域金融機関に提供し、金融機関における取引先企業やその事業の評価の一助として活用してもらうことを目的とした事業です。

 一方、金融庁は、昨年9月に「金融仲介機能のベンチマーク」を公表し、地域金融機関の事業性評価融資を後押ししています。

 私は率直に申し上げて、「知財ビジネス評価書」を地域金融機関が活用することのハードルはとても高いと思っています。

 国側には、知的財産については金融機関に評価できる目利き人材が不足しているため、知的財産を活用したビジネスが正当に評価されずに、そうしたビジネスに資金が提供されないという問題意識があるのは分かるところです。

 しかしながら、実際には個々のケースを見る必要があります。

 「銀行はウチがいくらいい特許を取得してもお金を貸してくれない」という旨の経営者の方の主張をそのまま受け止めるのは少し短絡的かも知れません。

 そうした企業が有する特許が、本当に事業に資するものでしょうか? 

 知財を有する企業やその事業に資金が供給されないのは、果たして金融機関の知財の切り口での目利き能力やそうした能力を有する人材が不足することが主要因でしょうか? 

 特に中小企業においては、知財を活かすも殺すも経営者次第であったりします。金融機関の方は、経営者の資質についてはよく見ていることが多いというのが私の印象です。

 そして何より、お金になる知財かどうかの目利きを金融機関の方に求めることは酷なような気がします。こうした「目利き」は、知的財産の専門家でも極めて難しいのです。
 
 例えば私の経験したところでは、次のようなことがありました。

 ①「ビジネスモデル特許」を取得したのにライセンス先が見つからないと相談に来られた中小企業の方の特許の請求項を精査したところ、他人が容易に回避できる特許だということが分かりました。

 ②「当社は特許●●の専用実施権者である」と書かれた事業計画書の評価を依頼され、特許庁から特許登録原簿の謄本を入手して確認したところ、虚偽でした。後日、その事業計画書の企業の経営者に接触したところ、知財に関してはほぼ無知という有様でした。もちろん「専用実施権」という言葉も理解しておられませんでした。

 ③ある企業が新商品開発を行い、ユニークな商品アイデアを特許化しました。しかしながらその新商品自体が、自社の特許も使う一方で他人の特許を侵害するような実施形態のものでした。

 ・・・ネガティブなものの例ばかりでしたが、まだほかにもあります。
 このような事象を、金融機関自身で「目利き」して見抜くことは現実的ではないと思います。

 また、金融機関の方は異動が多く、企業の知財担当者のように長年に渡って知財と向き合う人材がいることは稀です(大手は別ですが)。

 取引先の事業とじっくりと向き合う機会や時間が少なければ、事業性評価の目利き力を高めるにも不都合でしょう。

 特に、特許が功を奏するにはタイムラグがあります。少なくとも数年は関わらなければ特許の金銭的価値を実感できることは少ないでしょう。利益は上がっても、それが特許に起因したものであるかどうかは実感できないことが多いと思います。

 私がよく中小企業の方にお伝えしていることですが、人的資源に制約が大きい中小企業であれば自社にいきなり知財の専門人材を育成しようとするのではなく、まずは外部の知財専門家と何とか意思疎通のできるレベルの人材を育てることをお勧めしています。

 金融庁の「金融仲介機能のベンチマーク」では、外部の専門家を活用することが指標として挙げられています。
 このため地域金融機関でも、自行庫にそうした人材を育成してはどうかと思います。

 しかし異動が多ければうまく機能しないかも知れません。その場合には、「知財」の切り口での目利きは捨てて、事業性評価や経営者の資質の適切な評価ができる人材の育成に徹するのがいいかも知れません。

 なお、仮に外部の専門機関を利用して「知財ビジネス評価書」を作成したとしても、それを活用して最終的な融資判断を行うのは金融機関自身です。
 「知財ビジネス評価書」を金融機関自身で、どこまで妥当性を評価できるでしょうか。

 私の事業の屋号は「知財経営研究社」ですが、知財にフォーカスし過ぎると本来の経営をよくするという目的から逸れてしまいます。
 このため、知財関連でご相談を受けた際にも、まずは経営状況全般からお話を伺うことにしています。
 すると、優先すべき課題が知財関係ではないこと分かる(それをご相談に来られた経営者の方も実は認識しておられる)ということが少なくありません。

 「中小企業知財金融促進事業」の支援制度を機会に、地域金融機関が知財ビジネス評価を体験してみるのであれば、公的な資金を投入して行われる支援が終わったときに自行庫に何を残せるのか、それをどうすれば活用し続けることができるのかを事前によく検討しておかれるのがいいと思います。

 現実的には、すでに優良な企業であることや有望な事業であることが客観的に確認できる案件について、「知財ビジネス評価書」が追認するような運用がされるのではないでしょうか。
 

*2017年3月31日公表
 「知財ビジネス評価書」を活用した融資の取組みについて ~ 武蔵野銀行 第1号案件 ~
 武蔵オプティカルシステム株式会社と融資契約を締結

知財経営研究社
 

2017年03月04日